捲土重来

トチュウエラストマー研究の開始

トチュウの研究では、このように研究資金の獲得に奔走しつつ大阪大学にてトチュウの研究開発を続けましたが、トチュウの基礎研究としてそれに遡る平成11年よりNEDO委託事業として、杜仲茶等の食品とは別に、トチュウの産生するトランス型ポリイソプレン(トチュウエラストマー)の研究を始めました。
このプロジェクト(代表:新名 惇彦 奈良先端科学技術大学院大学 元副学長)では、日本の植物科学を進歩させるべき国策事業として日立造船がハブとなり、大阪大学、九州大学、中国・西北農林科技大学、かずさDNA研究所と共同研究を行い、平成21年度まで、植物のポリイソプレンを含むイソプレノイド代謝とこれらの代謝産物の生成に関わる遺伝子解析の研究を進めました。

研究開始時にはトチュウエラストマーの分析・評価をする方法すら世の中に無く、トランス型ポリイソプレンを定量する化学分析法の開発から始めるなど、ほとんどゼロからの出発でした。しかし、このプロジェクトを通じて様々な研究開発を行った結果、現在ではこれらのポリマーの分子量分布から鎖長状態などの分析、基質となる疎水系化合物のハイスループット分析の手法まで確立しています。平成17年の事業部の閉鎖に伴って研究開発拠点を大阪大学移動したあと、生命先端工学専攻の小林研究室(当時)とタッグを組むことによって、加速度的にこれらの研究が進みました。

トチュウエラストマーを生産する酵素(モデル)
トチュウエラストマーを
生産する酵素(モデル)

天然ゴムの生産木もそうですが、植物には複数の種でゴムを作るものが知られています。また、植物のゴム産生は生化学の7不思議のひとつとして知られる植物科学の興味深いトピックです。トチュウもそういった種のひとつであり、基盤研究としてゴムの生合成経路や細胞内のどの場所でゴムが作られるかなど、そういった局在解析のための研究を進めました。
分子生物学の技術を用い、トチュウの完全長cDNAライブラリー作製やそれによるEST解析、DNAマイクロアレイ解析を行い、硬質ゴムであるトチュウエラストマーの生合成遺伝子の単離や発現解析に成功しました。更に、遺伝子組換え技術やRNA干渉法等の利用により、トチュウエラストマーの増産や減少制御にも成功しています。このほか、本来ゴムを作らない異種植物であるタバコにトチュウエラストマーの生合成遺伝子を導入して、タバコにてトチュウエラストマーを生産させることにも成功しています。
もちろん、現在このような遺伝子組換え植物の利用はまだ社会的理解が十分でなくハードルが高い状態ですが、遺伝子組換え植物の利用は、今後の植物科学、農業生産、天然物化学にとって重要な一分野です。技術の安全性が認められ、また社会的理解が深まった将来に備え、野生株を使ったトチュウの花粉飛散試験なども実施し、来たる遺伝子組換えによる国策工業原料の実用化のため技術温存をしている状況です。

このトチュウの機能性解析を通じて、これまで共同研究先の大学からは多くの博士学位取得者や修士学位取得者を世に輩出することができました。トチュウを介して人材育成に大きく寄与したことが現在の財産になっています。

Hitzバイオマス開発共同研究講座の設立

日立造船社長(当日)の開所式参加
日立造船社長(当時)の開所式参加
海外の研究分室(中国法人内に設置)
海外の研究分室(中国法人内に設置)

上記の基礎研究をベースとして平成20年度より実用化開発に取り組んでいます。それまでは、共同研究という小規模の実施体制でしたが、平成21年に大阪大学に共同研究講座を工学研究科生命先端専攻の福崎研をメンター講座として設立しました。そして、オープンイノベーションとしてトチュウ種子の果皮から微生物分解によるトチュウエラストマーを製造する生産技術を考案しました。
平成20年には、その生産実証試験としてNEDO提案公募助成事業(ODA)に採択され、中国にパイロット生産プラントを建設して実証運転に成功しました。このことにより一度は杜仲茶の事業を手放した日立造船株式会社も、再びトチュウを用いた新規事業に対して本腰を入れた投資を行い、トチュウエラストマー事業を本格展開する段階に入りました。
平成23年8月にはバイオマス工業原料の懸念事項である安定供給問題を払拭し顧客信頼の向上のため、海外法人「日立造船(楊凌)生物資源開発公司」を独立資本によって中国内陸に設立しました。現在、この事業は安定供給に必要な自社農園と協力農園を設けて、トチュウエラストマー事業準備を終えたところまで来ています。

Hitz協働研究所

Hitz協働研究所は平成29年4月より、Hitz(バイオ)協働研究所の研究領域をより広げて活動を続けています。その母体はトチュウエラストマーを用いた高機能化学原料開発や複合化材料開発、アライアンス企業との用途開発やマーケティングのために設立したHitzバイオマス開発共同研究講座に遡ります。
大学の部局間にまたがる研究や企業の持ち込み開発などが多くなり、共同研究講座の枠組みでは対処できない規模に至ったため共同研究講座を協働研究所へと改編し、さらに協働研究所を司令塔に他大学からも兼任教員をお越し頂くことにより、層の厚い研究開発が可能となりました。
そして、平成25年10月にはNEDO助成事業に採択され、素材開発センターを設置しました。ここでは、各社からの研究員を大阪大学の招へい研究員として受け入れるプラットフォーム機能によって、多様な試験生産装置を駆使した機能性材料の開発が進められています。

素材開発センター(H26.4月開始)
素材開発センター
(H26.4月開始)

杜仲茶の事業開始より四半世紀の歴史を経て、トチュウエラストマーはバイオ事業の第二の潮流となりました。動き始めた潮流を止めることなく進めなければなりません。現在では、杜仲茶事業を知らない若い世代の研究員が異国の地で奮闘し、後から続く者のために植林を行いバイオマスの安定確保に奔走しています。これらはまさに、仕込みの経営であり産学連携により捲土重来を目指しています。